タンパク質やアミノ酸などの生体分子は光学異性体であり、キラリティー(物体の鏡像が元の物体と重ね合わせられない性質) を有しています。不思議なことに自然界に存在する生体分子のキラリティーは偏っており、片方の光学異性体しか存在しません。 この現象は「ホモキラリティー」と呼ばれ、未だ解き明かされていない生命科学の謎の1つです。 この謎の解明を目指して、我々は、ナノスケールにおけるキラル構造と光学活性の評価に取り組んでいます。 もしも、単一キラル分子の電子構造と光学活性を直接観察することが出来れば、キラリティー発生の起源に迫ることが出来ると考えています。 現在我々は以下の2つの測定手法を用いて本研究に取り組んでいます。
1. STM誘起発光分析(STM-LE)
走査トンネル顕微鏡におけるトンネル電流によって誘起された原子・分子から放出される発光を分析します。 通常の光学測定では観測不可能なナノスケール領域からの発光現象を捉えることが可能です。
2. 探針増強ラマン分光分析(STM-TERS)
ラマン分光法はレーザー照射により分子に特徴的な振動スペクトルを検出する方法です。 このラマン散乱は、金属ナノ構造体に光を照射した際に発生する局在表面プラズモンによって散乱強度が著しく増大します。 探針増強ラマン分光法は、STMによる形状分析と、金属探針による局所的に増強したラマン分光分析を組み合わせた手法であり、 ナノスケールでのより豊富な物理化学的情報を同時に取得することができます。